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我が国における駐車場の集約化・配置適正化の状況と今後の課題 IBS | IBS Annual Report 研究活動報告2017

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我が国における駐車場の集約化・配置適正化の状況と今後の課題

The Situation of Parking Aggregation and Placement-Optimization in Japan and Future Issues

松本浩和

 青野貞康

 加藤桃子

**

 須永大介

***

 正木 恵

**

 石神孝裕

**** By Hirokazu MATSUMOTO, Sadayasu AONO, Momoko KATO, Daisuke SUNAGA, Megumi MASAKI and Takahiro ISHIGAMI

1

はじめに

我が国の駐車場は、昭和 32 年の駐車場法制定以降、 道路交通の円滑化を目的に、量的整備が着実に進めら れてきた。その一方、昨今、駐車場を取り巻く環境は 大きく変化しており、駐車場の質的向上が重要な課題 となっている。

駐車場は移動手段である「クルマ」から活動場所であ る「街」への乗換口としても位置付けられるため、各交 通モードの動線をふまえ地区交通計画と一体となって 整備・運用されることが求められる。その際には、歩行 者との錯綜等の問題が発生するため、当然ながら交通 安全の観点にも配慮が必要である。

さらに駐車場は都市空間の中でかなりの部分を占め ることから、街並みの景観に与える影響が大きい。小 規模な路外駐車場が乱立されると、有効な土地利用へ も悪影響を与えることになる。従って、駐車施策は道 路交通の円滑化という目的だけでなく、中心市街地活 性化の観点からも重要な施策となりうる。

本稿では、日本における駐車施策に関する変遷とし て附置義務駐車場等の基礎的データ及び駐車場法制に 関する近年の動きを概観したうえで、駐車場の質的整 備方策の一つとして促進が求められている駐車場の集 約化・配置適正化について、全国の自治体における取組 状況を紹介するとともにその課題について考察を行う。 なお、本稿の内容は、当研究所が国土交通省都市局 街路交通施設課から業務を受託したことを契機とし、 業務内容もふまえ考察・整理したものである。

2

我が国のこれまでの駐車施策

(1)駐車場の収容台数

国土交通省調べ1)による各年度末時点の駐車場整備 台数及び自動車保有台数を図- 1に示す。平成 10 年以 降は自動車保有台数が横ばいの傾向を示しているのに

対し、駐車場の収容台数は増加を続けており、駐車場 総台数は平成 27 年度末で約 499 万台に達している。 このうち附置義務駐車施設が約 311 万台と約 62 % を 占め、次いで届出駐車場が約 176 万台と約 35 % を占 めている。

路外駐車場のうち、規模が 500 ㎡未満のものについ ては届け出の義務が無く、図- 1の統計には含まれて いないものの、近年では未利用地の暫定利用として、 いわゆるコインパーキングの設置が進んでいる。日本 パーキングビジネス協会2)によると、500 ㎡未満のコ イン式駐車場の車室数は、平成 23 年の約 43 万から平

(2)

成 27 年の約 62 万と、約 44 %(年率約 13 %)増加して いる。なお、ここでいうコイン式駐車場とは、賃借・自 社物件を問わず、附置義務駐車場及びその他の駐車場 においてコイン式駐車場運営会社が運営する駐車場を 指しており、附置義務駐車施設等の一部も含まれてい る点に留意が必要であるものの、一般的に利用可能な 駐車場の車室数は図- 1に示す台数よりもさらに大き くなることは確実である。

(2)駐車場法制に関する近年の動き

ここで平成以降の主要な駐車場法制に関する動きに ついて述べる3), 4)

平成 3 年度には、駐車場法の改正がなされ、駐車場 整備地区の対象区域の拡大や駐車場の整備計画の創設 がなされた。その他、附置義務対象建築物の延床面積 下限の引き下げが行われており、これは駐車場の量的 整備促進を意味する。

平成 6 年度には、標準駐車場条例が改正され、荷さ ばきに伴い発生する駐車需要への対応として、荷さば きのための駐車施設の附置の義務付けが可能となった。 その後、駐車場の質的整備に関し、平成 15 年 4 月の 社会資本整備審議会都市交通・市街地整備小委員会のと りまとめの中で、整備すべき駐車場の形態、位置、使 われ方等に関する言及がなされた。このとりまとめを受 け、附置義務駐車場の隔地・集約化を中心とした今後の 駐車場施策のあり方が平成16年4月に提言されている。 平成 16 年 7 月には上記提言を受ける形で、「ローカ ルルールの採用」や「隔地駐車場の積極的な活用」等を 盛り込む形で標準駐車場条例が改正された。

また平成 24 年度には、都市の低炭素化の促進に関す る法律が制定され、低炭素まちづくり計画に駐車機能 集約区域並びに集約駐車施設に関する事項を記載した 場合には、駐車機能集約区域内で建築物の新築・増築を する際に集約駐車施設内に駐車施設を設けなければな らない旨を条例で定めることが可能となった。

平成 26 年には、都市再生特別措置法等の一部を改正 する法律が制定され、立地適性化計画において歩行者 の移動上の利便性及び安全性の向上のための駐車場の 配置の適正化を図るべき区域として「駐車場配置適正化 区域」を定めることが可能となった。この中で、路外駐 車場配置及び規模の基準を設定することで、条例で定 める一定規模以上の特定路外駐車場を設置しようとす

る者は市町村長に届け出を行い、届け出の内容が基準 に適合しない場合には勧告を行うことができるように なった。また集約駐車施設の位置及び規模に関する事 項を設定することで附置義務駐車場の集約化の義務付 けも可能となった。

以上より、昭和から平成まで一貫して進められてき た量的整備を主とした駐車施策は、質的整備の重要性 が唱えられ始めた約 10 年前に大きく転換し、近年にお いては駐車場配置適正化区域等の具体手法を用いるこ とが可能な環境整備がなされた段階にあるといえる。

3

駐車場の集約化・配置適正化の取組状況

(1)取組状況の概要

国土交通省による駐車場の集約化・配置適正化等の 取組状況に関するアンケート(平成 28 年 10 月実施)で は、全国 1 , 741 の自治体に尋ね 1 , 471 の自治体から 回答を得ている(回収率 84 . 5 %)。

このうち、取組を実施済みと回答した自治体は 27 自治体であり、全自治体のうち約 1 . 5 % となっている (図- 2)。

今後取組を予定している自治体は、取組実施済みの 6 自治体を除くと 22 自治体(1 . 3 %)のみであり、駐 車場の集約化・配置適正化に取り組んでいる自治体は少 ない状況にある。

取組実施予定の自治体は、実施済みの自治体と比 べ、地方都市圏の自治体や政令指定都市以外の自治体 が多い傾向が見られており、比較的都市規模の小さな 自治体においても取組実施のニーズが高まっているこ とが窺われる(図- 3)。

(3)

(2)取組内容の傾向

a) 取組内容の分類

実施済みと回答のあった 27 自治体の 32 事例に関し て、取組内容の分類を行い整理した結果を表-1に示す。 最も多かった事例は歩行者の歩きやすさや景観への 配慮から駐車場出入り口の作成を制限するもの(15 事 例)であり、次いで特定エリアにおいて隔地駐車場を 推進することで駐車場整備抑制エリアを作るもの(8 事 例)である。また、集約駐車場整備に関する事例数は 2 事例と限定的である。

駐車場出入り口の作成を制限する方法としては、景 観法を用いた手法がとられていることが多い。例えば 名古屋市では、景観計画区域内(市全域)で、特に良好 な景観の形成を進める地区として「都市景観形成地区」 を指定して都市景観形成基準を定め、駐車場の出入口 は原則として主要道路に面して設置しないものとし、 街並みの連続性やにぎわいを確保している(図- 4)。

b) 取組を実施する理由

取組実施済み事例における取組実施の理由につい て、複数回答で回答された結果を図- 5に示す。「自 動車との錯綜の発生に伴う歩行者環境の悪化を抑制 (71 %)」や「道路前面敷地に駐車場の出入口を確保す ることに伴う賑わいの喪失(52 %)」が多く挙げられ ている。まちなかの歩行環境を整備し、回遊性の向上 による賑わいを回復することが主要な動機となってお り、まちづくりの観点から駐車施策が実施されている といえる。

図-3 駐車場の集約化・配置適正化の取組を 実施済み・実施予定の自治体の立地及び都市規模5)

表-1 取組分類別の事例数5)

図-4 都市景観形成地区と駐車場設置方針の例6)

(4)

また、自治体からは「都心部の駐車場が量的に充足し てきたことで、質的な検討を行うことができるように なった」や「自治体として推進している『歩いて楽しい まちづくり』との整合が求められる」、「自動運転等の技 術進歩により、都心部における土地利用や賑わい及び 回遊性について大きな影響を与えるため、より一層の まちづくりとの連携が求められる」といった声が寄せら れている。

c) 取組対象エリアの形状

駐車場の集約化・配置適正化の取組の対象範囲に関し ては、特定の道路を対象とするような“線的なエリア” と地区全体を対象とするような“面的なエリア”とが想 定される。これら対象範囲を考慮し取組を分類した結 果を図- 6に示す。

実施済の自治体の取組内容としては、特定の道路を 対象とした線的な取組の方が若干多くなっている。一 方で取組予定の自治体では、方針未定を除くと、全て の自治体が面的な取組を検討しており、今後、線的な 取組から面的への取組の実施が進むことが窺われる結 果と考える。

4

取組実施における課題

前章において示した駐車場の集約化・配置適正化の取 組状況および取組内容の他、自治体へのヒアリング結 果もふまえ、駐車場の集約化・配置適正化の取組実施に おける課題を抽出した。抽出した課題のうち、主たる 課題と考えられるものを下記に 3 点示す。

(1)駐車施策の進め方に係る情報の共有と普及

集約駐車場を計画するための考え方や情報が少な く、具体的な検討を進めることが難しいという問題を 複数の自治体が挙げている。特にこれまで附置義務条 例を制定した経験の無い自治体にも集約化・配置適正化 のニーズが生じていることをふまえると、駐車施策の 進め方に関する情報の共有と普及を促進することが課 題である。

例えば、集約駐車場の計画を検討中の自治体への情 報の共有にあたっては「都市の低炭素化の促進に関する 法律に基づく駐車施設の集約化に関する手引き」7)等の 整理された資料を活用することも可能である。また一 方で、駐車施策を検討していない自治体に対しても駐 車施設の集約化の意義等を共有・普及することで、駐車 施策の充実を促進することが重要である。

(2)駐車場法施行令の技術的基準見直し

駐車場法施行令における路外駐車場の構造及び設備 の基準の各項目について、駐車場の配置適正化や集約 化等に関する取組に際して支障となった事例(あるいは 想定される事例)を尋ねた結果を表- 2に示す。各自治 体から様々な支障となった事例が示されているが、特 に以下の 3 項目への指摘が多くなっている。

・ 道路幅員が 6 m 未満の道路に駐車場の出入口を設置 しないこと

・ 道路の曲がり角から 5 m 以内に駐車場の出入口を設 置しないこと

・ 前面道路が 2 以上ある場合、自動車交通に支障を与 える恐れの少ない道路に出入口を設置すること

これらの技術的基準を緩和することにより配置適正 化や集約等に関する取組が進むことが期待される。緩 和する際の条件として、例えば歩行者のにぎわいの創 出を検討する区間等として位置付けられた道路につい てのみに限定するなど、一定の条件を設けたうえで技 図-6 取組対象エリアの形状

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術的基準を緩和する等の見直しについて検討すること が求められる。

(3)抑制エリアでの小規模駐車場規制方策の検討

コインパーキング等の駐車場を含む低未利用地につ いては、利活用方法を検討している自治体が一定数存 在している。またその中には、駐車場整備を抑制する エリア内において小規模な民間駐車場が整備されてし まった事例も報告されている。

小規模コインパーキングが近年増加している要因の 一つとしては、500 ㎡未満の駐車場については技術基 準が無いことが挙げられるため、駐車場整備の抑制を 図るエリアにおける民間の駐車場整備の規制方策の一 つとして、全ての駐車場を技術基準の対象にすること も考えられる。こうした検討については、有識者会議 等で、規制の是非や利害得失を含めた議論から始める ことが考えられる。

5

おわりに

本稿では、これまでの駐車施策について概観したう えで、まちづくりの観点から求められている駐車場の 集約化・配置適正化の全国の取組について現況を示し、 取組内容の分類や取組実施の理由、取組対象エリアの 形状の変化について紹介した後、駐車場の集約化・配置 適正化に関する取組実施における課題について整理を 行った。

ただし、これからの駐車施策を考えるにおいては、 集約化・配置適正化に限らず幅広い検討が必要になると 考える。

例えばフランスのアンジェ市では、自動車 280 台分 の駐車スペースを時間限定で転用し大規模なマルシェ が開催されている8)。またシンガポールでは、いずれ 別の用途に転用することを考慮に入れたうえで大規模 な駐車場ビルの設計プロジェクトが進められており、 床の水平化や天井高さを通常よりも高くするといった 配慮がなされている9)

またパリ=シャルル・ド・ゴール空港においては、自 動バレーパーキングシステムが導入されている。指定 スペースに駐車した後は、ロボットが自動車を空いた 駐車スペースまで自動で運ぶシステムとなっており、 駐車場の利用方法が大きく変わる可能性を秘めている。 上記のような取組が海外で既に進められつつあるこ とをふまえ、我が国においても駐車場の集約化・配置適 正化だけにとどまらず、整備された駐車場をいかに柔 軟に運用していくかについて、より検討が進められる ことが期待される。

さらに近年の ICT 技術の進化等より駐車施策はさら に多様化することが見込まれ、また先述したとおり駐 表-2 駐車場施策実施に関する支障事例数5)

(6)

車施策には中心市街地活性化や交通安全の観点も含ま れることを考慮すると、我が国における駐車施策に関 する制度全体を見つめなおす時期に来ているのではな いだろうか。

参考文献

1) 国土交通省都市局街路交通施設課:平成 28 年度版 自動車駐車場年報,2017 .

2) 一般社団法人日本パーキングビジネス協会:コ イン式自動車駐車場市場に関する実態分析調査 2015 年版,2016 .

3) 国土交通省都市・地域整備局街路課監修・財団法人 駐車場整備推進機構編集:駐車場法解説 改訂版, 株式会社ぎょうせい,2005 .

4) 国土交通省都市局街路交通施設課:第 30 回全国 駐車場政策担当者会議・資料 3 駐車対策の現状, 2017 .

5) 国土交通省都市局街路交通施設課:これからの駐 車場施策のあり方に関する調査検討業務報告書, 2017 .

6) 名古屋市住宅都市局都市計画部都市景観室:久屋 大通都市景観形成地区景観形成基準,2002 . 7) 国土交通省都市局:都市の低炭素化の促進に関す

る法律に基づく駐車施設の集約化に関する手引 き,2014 .

8) ヴァンソン藤井由美・宇都宮浄人:フランスの地方 都市にはなぜシャッター通りがないのか,学芸出 版社,2016 .

9) Newsweek(ニューズウィーク日本版)2016 年 10 / 18 号[自動運転 社会はどう変わるか]人類の 暮らしを変える自動運転という革命 , 2016 . 10) Stanley Robotics:プレスリリースページ

参照

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